「」と『』、ならびに「スクリーン」誌のこと。

 小説や映画の題名を書くときはカギカッコでくくるのが、ふつうの日本語の文章の決まりである。
 ところで、僕は小〜中学生ごろ映画少年で近代映画社の「スクリーン」を毎月読んでいたのだけれど、この雑誌には独特の表記のルールがあって、それはたとえば「日本で公開された(あるいは公開が決定した)作品のタイトルは邦題を「」で示し、日本未公開のものは原題の直訳を『』でくくって表す」というものだった。つまり、

ジョセフ・コットンはヒッチコックの「疑惑の影」や『山羊座のもとに』などに出演した。

みたいな書き方になるわけ。
 いちばん記憶力のよい時期にそういう刷りこみを受けちゃったおかげで、いまだに「安倍晋三の『美しい国へ (文春新書)』は云々」なんていうのを見ると一瞬「お、日本未公開」と思ってしまうのである。
 えー、それだけの話なんですが。
 当時の「スクリーン」には、双葉十三郎「僕の採点表」淀川長治「(題名失念、エッセイと日記)」品田雄吉「(これも題名失念、俳優の演技の話)」津村秀夫「映画的ムードの世界」水野晴夫「(対談)」荻昌弘(特定の連載はなく、「鑑賞のてびき」を中心に書いていたと思う)なんていう連載があって、あらためて思い返すとたいへんハイブラウな雑誌であった(懐)。荻昌弘なんて映画に限らずいろんな分野でものすごい量の仕事をしたのに、いま新刊書店で手に入る本はほとんどない。新潮文庫で再刊された伊丹十三みたいに、またどこかが出してくれないものか。