子供の領分(←意味ない)

遅咲きブログ少年 @はてな -  親が子を叱るとき

 男の子が3歳くらいで、サツキと同い年くらいだなあと思って見ていたから4年ほど前の話。
 その男の子はおかあさんと赤ん坊の3人でうちの店に来て、「めばえ」だか「ベビーブック」だかを買ってもらうことになったみたいだった。その子はいまどきその程度の雑誌で・・・と思ってしまうくらいのたいへんな喜びようで、ちょっとはしゃぎすぎてしまって、平積みになっていた別の雑誌の山をちょっと崩してしまった。
 テンションのあがったコドモが書店の中で狼藉をはたらくなんていうのははっきり言って日常茶飯事で(『暴れん坊本屋さん (1) (ウンポコ・エッセイ・コミックス)』を参照のこと)、自分もはじめて売場にたった頃は「最近の日本人のマナーというものは・・・」と憂国の念にかられていたものだけれど、しばらくするうちに慣れっこになってしまった。というか世の中が品行方正な幼児ばっかりだったらそういう風景のほうが怖いと思う。
 だからそのときも、僕はあとから崩れた山をなおしにいこうと思い、すこし離れた場所で作業しながらそのへんをぼーっと見ていた。
 ところがその母親は、子どもが粗相をしでかしたのを見て烈火のごとく怒り、彼が買ってもらうはずだった雑誌をとりあげて大声で叱りだした。そのときその母親が正確になんと言って怒っていたのかは忘れてしまったのだけれど、それに対する男の子の台詞だけははっきり覚えている。彼は、自分がとんでもないことをしてしまったといった表情で、母親にむかって「ごめんなさい、もうしません、ゆるしてください・・・」とくりかえしくりかえし謝りつづけていたのだ。
 当時サツキもいいかげんいたずらめいたことを覚えはじめていて、こっちが怒ったときに「ごめんね」と言えば事態は解決に向かう、ということがなんとなくわかってきた頃だったと思う(なぜかはじめは「ごめんなさい」とは言わず「ごめんね」と対等の立場で謝罪していたものだ)。だから彼女がそのときの男の子の立場で、お店の中で叱られたら「ごめんなさい」とは言ったと思うし、もしかすると「もうしません」とつけくわえる知恵さえあったかもしれない。しかし、「ゆるしてください」とは金輪際言わなかったにちがいない。意味すらわからなかったろうと思う。
 自分がショックだったのは、男の子の「ゆるしてください」ということばがスムーズに、言い慣れた調子で出たことだった。普段からそのように謝罪する習慣があるのだろう、と思われた。そしてそのような習慣は、自分にはあまり好ましいものに思えなかった。
 僕は3、4歳の幼児が「許してください」とすんなり口にできるような環境が健康だとは決して思わない。しかし、そのような教育方針をとっている他人の家庭に口を出す覚悟もまた持ってはいないのだ。
 ちなみに、くだんの親子はその後もときどきうちの店に買物にきてくれている。客注を受けたこともある。はたしてその母親は決してそのときの印象のせいではなく、「うーん・・・」という感じの方だった。いっぽう男の子のほうはとくに変わった様子もなく、すくすくと普通の悪ガキに育っているようで、それを見たとき僕は、大げさでなく本当にほっとしたのです。