10月の魔女

 サツキが学校の友だちとハロウィンパーティをやるとか言って、スーパーで魔女の帽子のついたカチューシャを買ってもらっていた。イマドキのコドモだなあ。
 そこでふっと思いついて自分の黒いTシャツをかぶせてみると、めでたく『魔女の宅急便』のキキみたくなって可愛らしい。当日はこの恰好で箒を持って行くそうだ。
 本棚の奥から『魔女の宅急便』の公開のときに買った「アニメージュ」特別編集のガイドブックをひっぱりだして見ていたら、宮崎と武田鉄矢の対談の記事が載っている。興味を引いた部分を転載。

武田 ぼくらが映画をやる場合、撮影現場で夢がはがれていくのは体験しますから・・・(略)実写の場合は、目の前に美術が出てくるわけでしょう。セットに入った瞬間、どの程度の予算かというのがわかるわけですよね。美術もよくやってくれているのはわかるんですが・・・。(略)
たとえば、こういうのもむずかしいんですよ(と「魔女の宅急便」のポスターを指して)。手前の陳列ケースに風景がうつっていて、それを正面から撮るなんていうのは、この女の子を撮るためにライトを持ってくるから、どうしても陳列ケースに"うつり"が出るでしょう。それをさせないで、こういうふうに撮れるのは、黒澤組(黒澤明監督のスタッフ)だけでしょうね。

これですね。
http://ec2.images-amazon.com/images/I/51GSJ95ESGL._SS500_.jpg

武田 問題は、その東京の風景のひとつひとつに人権がこもっているっていうことなんですよね。たとえば、50メーター俳優さんを走らせるとして、少なくとも200人前後におわびをしてまわらないといけない、というのが問題点のひとつ。

宮崎 (略)・・・じつはずっとあたためている企画があって、なかなかうまくいかないんです。新聞にのるような犯罪じゃない。エスパーものみたいにしてもつまらない。だけど、じつは風呂屋の番台にすわっているバアさんが犯罪組織の頭領で、ある少年が小さな女の子をかくまわなければいけなくなって、風呂屋に行くんだけど、男湯に連れて入るわけにはいかないから、女湯にいかせたら、いつまでたっても出てこない、そんなことが発端になって映画がつくれないかなと思うんです。

千と千尋』?

宮崎 でも映画のロケってそんなに大変なものですか?
武田 ぼくらはとくに街頭に出てやるものですから。日本では大通り、交通を止めさせませんから。アメリカは1ブロックいくらで買えるんです。
宮崎 やっぱりそうですか。
武田 おもしろい国で、非番のオマワリさんをやとうんです。と、オマワリさんがオートバイ、ヘルメット、制服、拳銃つきでバイトに来るんです(笑)。・・・(略)・・・そこで4ブロックぐらい全部交通を止めるんです。こんな気持ちのいいことないですよね。それで通行人はエキストラですから、迫真のカーチェイスができるわけ。いま日本でそれができるのは石原プロだけです。
宮崎 その話はよく聞きますね(笑)。
武田 だから、はじまったばかりの番組はみじめですよね。「天下の公道で何やってんだ」という罵声をあびせられて。それで(視聴率の)数字が20をこすと、みなさん止まってくださるんですよ。
宮崎 なるほどね。番組の名前をいっただけで対応が変わるんですね(笑)。
武田 だから足立、江東の「金八先生」はちょっとしたもんですから(笑)。千住で貸しきりOKですから。それは日本のいいところですよね、なじみになったときの強さというのは。

 『魔女の宅急便』は、最初のシーンの三浦浩一のセリフ「いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろう・・・」でいつも泣いてしまうので、最後まで見られないんだ。