接続詞について

「読みやすい文章を書くための技法」の、接続詞の件りで思いだしたこと。

……多少その傾向があるということは否定できないが、しかし、論理的であることと表現が堅苦しいとか難しいということは何の関係もない。柔らかい文章でありながらしっかりと論理的である文章を挙げてみよう。

問3 次の空欄に適切な接続表現を入れよ。
ネコは本来、警戒心の強い生き物です。この警戒心とは、敵の気配を察したらすぐに逃げられるように、つまりネコが自分の身を守るために持っている本能です。しかし、心から安心できる環境にいるネコは、幸か不幸かこの能力を使わずにすんでいるのです。
つまり室内飼いのネコにとって、室内ほど安心できる場所はないのです。敵もいないし、エサもあるし、トイレだってあります。自分を愛してやまない飼い主が用意してくれた環境なのですから、悪いはずがありません。□□□、「室内飼いのネコが外に出られないからストレスがたまっている」という考え方を、全てのネコに当てはめることはできないのです。
(南部和也・南部美香『ネコともっと楽しく暮らす本』、三笠書房王様文庫)


難解さとはほど遠いペット本であり、文体もいたって柔らかであるが、それでもこの本は全体にきわめて接続表現が多用され、論理的である。いわゆる文章読本にのせるような名文ではないかもしれない。しかし、ここでは論理がきわめて率直に、自然に、息をしている。
ポイントは「対話の精神」にある。ネコ専門の獣医である著者たちは、おそらく、ネコの飼い主に話しかけるように文章を書いているのだろう。「ええ、たしかにそうですが、しかし、こうなんです。つまり、こういうわけです。だから、実はこうなんですよ」、こんな調子で聞き手の反応を見ながら語りかける。これが、接続表現の多用につながるのである。
問題の空欄の前後は、「室内飼いのネコにとって室内ほど安心できる場所はない」という主張と、「外に出られない室内飼いのネコにストレスがたまるということは、必ずしも全てのネコに当てはまることではない」という主張である。これをつなぐ接続表現は何か。それほど難しくなく、「だから」(「それゆえ」「したがって」)が入れられたのではないだろうか。


問3の解答 だから(それゆえ、したがって)


他方、硬い文章でも、教科書のような記述や、意見の押し売りのようなものは、いきおい接続表現が乏しくなり、論理的な構造が欠如してくる。冒頭に挙げたのは新聞記事であったが、一般に新聞記事には接続表現が乏しく、これといった論理的構造がない。それはつまり、対話の精神に欠けているからではないだろうか。
論理は数学の証明に理想的に現われるわけではないし、また、評論や論説に特有のものというわけでもない。言いたいことがきっちりあって、それを自分と意見が違うかもしれない他者へ伝えようとするとき、たとえ柔らかで平易な文章であっても、そこに論理が姿を現わす……


野矢茂樹論理トレーニング101題


文中の「ここでは論理がきわめて率直に、自然に、息をしている」という個所が私はとても好きで、読むたびほとんど泣きそうになるのである(←涙もろすぎ)。