会社にいたころのこと(休みがとれなかった話)

というわけで無職になった私がまず思ったことが「とりあえず2、3か月ほど休みたい」ということだった。


まあ世の中には私なんぞよりもっと忙しい方も休みをとれていない方も大勢いらっしゃるとは思いますのでことさら自分が自分がと出しゃばるつもりもないのですけど、私もそれなりに忙しくはありまして、とくに上の子が生まれてから5年ほどのあいだは、まる一日休める日がほとんどなかったものだ。小型店の店長をやっていたせいもあり、うちにいても店からかかってきた問合せの電話に指示を出したりそれで済まない場合はあわててとんでいったりしなければならなかった。生まれたコドモの顔を見せるために盆や正月に田舎に帰りもしたけれど、そのせいぜい4、5日の休みをつくるために、厄介そうな仕事を前倒しして片付けておいたりアルバイトの特別編成のシフトを組んだりそのアルバイトがやることがなくて遊んでしまわぬようある程度の作業を用意しておいたり、帰ってくればきたでなんだかんだと留守中の後始末があるし、何度かそういう休みをとるたびに「これなら休まないでずっと店に出てたほうがナンボか楽だわ」と思うようになって、保育園にあがるころには田舎にはヨメさんとコドモだけで行ってもらうようになってしまった。


そうした生活を10年近くつづけたあと店長職からはずれて、やっと「毎日顔を出す」とか「休みの日に店からの電話におびえる」ということはなくなった。しかし長期の休暇がとれないのはあいかわらずであって、ふだんの公休に一日足して三連休にするのが関の山である。その場合も一般的な連休にはアルバイトの休みを優先するので(そのほうが人件費が浮く)、時期を外してとるのが常だった。というわけでうちのコドモらは帰省以外の旅行の経験がほとんどないのである。お金もなかったのでしょうがないっちゃしょうがないのだけど、まあ申し訳なく思っております。


そういえば、これは最後にいたT店での話だが、ちょうど5月の連休に私の死んだ祖父さんの十三回忌をやることになって、上の子も中学にあがったことだし顔見せも兼ねて久しぶりに一家そろって帰ろうかと店長に希望を出すと、なんと「ゴールデンウィークは書き入れ時だからダメ」と却下されてしまったのを思い出した。自分が店長のときには従業員の休暇申請にノーと言ったことはなかったし(ちょっと困った顔をしてみせたりしたことはありましたよ)、ほかの店長からもそんなことを言われたことはなかったのでとてもびっくりした。なので「この店の黄金週間はさぞ忙しいのであろう」と覚悟していたのだが……とくに何のことはない普通の祝日で、心のなかでコケてしまった。確かにお客さんは平日よりは多いけど、納品も休みなのでとくに人手が足りなくなったりはしないのである。「なんで私の休みは却下されたのかしら?」とほかの社員に愚痴をこぼすと彼女は「店長は社員が率先して休みをとるのをすごく嫌がるのだ」とのことであった。なんだそれ。そういやあ却下されたとき「あなた子どもがいるんだから、夏休みもとるんでしょう」とか言ってたなあ。だからうちはちゃんとした夏休みとったことなんかないんだよう、と言おうと思ったが面倒になってやめてしまった。法事には例によってヨメさんとコドモだけが行くことになった。あらためて思い起こすと、自分勝手な店長だったなァという気がする。今もあの調子でやってるんだろうかあの人。


最後はただの恨み節になってしまいましたが、かようなわけで、私はすぐには就職活動に入らなかったのであった。つづく。