村上龍『半島を出よ』
ちょっと思うところがあって、図書館に行って『半島を出よ (上)』『半島を出よ (下)』を借りてきて読んでみました。
私は軍事方面にはとんと疎いので、この小説の状況設定や描写が的を射ているのかとんちんかんなものなのかわからなくて困りました。そこで例によってネットの評判をみてみると、これも「さすが村上龍すっごくリアルぅ」という感想と「よく知らないくせに出鱈目書いてんじゃねえよプゲラ」みたいなのが相半ばしており、定まった評価がないようなのです。ためしにはてなダイアリーで貶していた人に「どこが可怪しいの?」と聞いてみましたが、よく覚えてないというお返事でした。単行本が2005年ですから、まあほとんど10年前の小説ですもんね。
否定派には、軍事・兵器にかんする文句の他に「中国経済がそんなに順調に強大になるはずがない」と言う人が結構いて、こういった意見こそなんというか「往時を忍ばせる」という感じがする。
それはともかく、軍事や経済に疎くても読んでいて「これは、あるなあ!」と思ったのはたとえばこういう部分。
確か2007年の春だったが、総理大臣と財務大臣がテレビの前でぺこぺこと頭を下げながら、これは日本を救うためです、これしか方法がないのです、と涙ながらに演説して……
「prologue1 2014年12月14日川崎 ブーメランの少年」
私は村上龍の良い読者ではなくて、今まで『コインロッカー・ベイビーズ』と『愛と幻想のファシズム』しか読んだことがない。きらいではないのだけど両方とも「超もりあがる上巻+ほとんど尻切れトンボみたいな下巻」という読後感だったので、本作もそのパターンじゃないかと疑っていたのだけれど、なんとかテンションを維持してラストシーンまで走ってくれてよかった。
あの○○が××してしまう!? という場面がクライマックスになりますが、たとえばこれが大江健三郎のような純文学だと「全ては徒労に終わり虚無感だけが残る」という結末が予想されるし、反対に純エンタメ作家なら「首尾よく計画が成功してド派手なラストシーン」になるに決まっているわけです。ところが村上龍の場合「どっちの結末に持っていくかわからない」というスリルがあって、あらためて作家の立ち位置として面白い存在だなあと思いました。
- 作者: 村上龍
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