東欧見聞録>恐怖のるーまにあ : 01 (text by 大山あゆみ)

(JOHNR)「ジョン万次郎星間漂流記」606 of 786 89/09/23 20:07:02 101 line(s)
from 0681 大山あゆみ
題名(Title): 東欧見聞録>恐怖のるーまにあ : 01
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ルーマニアにはコマネチ、ルーマニアと云えばコマネチ、ルーマニアはコマネチの国とゆのがルーマニアに関する大山情報のすべてでした。 東欧なんか何処に行ったとてどうせ社会主義国で愛想が悪くて、そのくせ物価はすりらんか並みに安いに違いないとゆのがその大山情報の詳細であります。 しかし、大山情報は常にあてにならんのでした。 ルーマニアはそれはそれは恐ろしい国なのです。 じゃーん。


出発前に普段は縁のないTVなんぞを見てしまったのが、不吉な予感の始まりです。英国国営放送BBCルーマニア特集と称して怪奇番組を放映したのでした。 ルーマニアからの逃亡者なる人々が次々に現れ、祖国の恐ろしさを説いて行きます。 曰く「国境では何人もの逃亡者が撃ち殺されてはその場に埋められ、家族にさえ報告されることはない」「大統領ニコラエ・チャオシェスクによる独裁がしかれており、副大統領は彼の奥さんのエレナ・チャオシェスクである」「ルーマニアの中央部トランシルヴァニア地方に住むハンガリー人がえらく虐待されている」「政府の進める工業化・都市化に伴う工事では事故が多発し、沢山の人間が死んでいる」等々、うひー。 勿論、コマネチのコの字もありません。


いや、TVを信用してはいけない、TVは嘘つきである。 そう自分に言い聞かせて東欧へと赴き、チェコからハンガリーへと徐々にルーマニアに接近していきました。 さて、ハンガリーの観光名所ブダペスト城で「どぅゆぅすぴーくいんぐりっしゅ?」と、声を掛けられました。 東欧で英語を話すのは、闇の両替屋さんか詐欺師の方が殆どです。 むっ、これは絶対悪い輩に違いないと大山が振り向いたところ、そこにいたのは予想に反して■赤な頬の若者が三人、たどたどしい英語で言うには「僕たちはルーマニアから逃げてきたところで、これからアメリカに行きたいと思う」。
あまりにも大きな話題で呆れてしまった大山は、彼らの身の上話を聞く羽目となりました。 何でも国境近くの街から「グリーン・ボーダー」と呼ばれる■や茂みの多い地帯を抜けて逃げて来たとのこと。 国境の警備が厳しいのは事実らしく、彼らの内一人が逃亡時に撃たれたといって■の傷を披露して下さいました。 ルーマニアでは服が買えないよ人も親切じゃないよと逃亡の理由を説明し、大山を超不安に陥れても下さいます。
ハンガリーでは六箇月の滞在許可が貰えるので、多くのルーマニア人がハンガリーを目指して逃げてくるそうですが、逃げてきたとてハンガリーが彼らを喰わせてくれる訳もなし、彼らも現在無職です。 職のある西欧に行きたいとは思うものの、ルーマニア語しか話せないではどうにもならぬ、そこでこうして観光地に出向いては英語を話す人を見つけて会話の勉強しているんだと、泣かせるじゃありませんか。 浪花節大山は持てるかぎりの力を駆使して彼らに英語を教え、代わりにルーマニア語を少々教わって彼らと別れたのでありました。
その後しばらくして気付いたことには、がーん、財布がないっ。 彼らに会うまでは持っていたはずだから…… 考えないことにしました、くすん。


いよいよルーマニアへ向かう前日となり、大山はルーマニアを旅してきたカナダ人とすれちがいました。 「ルーマニアは寒いからセーターをあげよう、ルーマニアには食べ物がないからサラミをあげようビタミン剤もあげようパンは行列して買いなさいバターとコーヒーがないから買っていきなさい、地図もあげよう、新聞や雑誌を取り上げられないように気をつけなさいカメラも気をつけなさい、節電対策で街中が暗いから懐中電灯も必要だ」と早口で言った彼は、るーまにあんさばいばるきっとを山のように大山に残して去って行ったのでした。 ここまでくると不吉な予感どころではありません。 大山の運命やいかにっ。 つづくっ。


追伸で、えー、ハンガリーのお金が入った財布は例の三人にすられたのではなくて、さっき出てきました。 疑ってごめんねごめんねごめんね。