東欧見聞録>恐怖のるーまにあ : 02 (text by 大山あゆみ)

(JOHNR)「ジョン万次郎星間漂流記」607 of 786 89/09/23 20:09:07 101 line(s)
from 0681 大山あゆみ
題名(Title): 東欧見聞録>恐怖のるーまにあ : 02
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ルーマニアへの国際列車で、トランシルヴァニアに住む友人に会いに行くというハンガリーの学生と乗り合わせました。 語学専攻の五人ですが、政治にも大いに関心を寄せています。 彼らから聞いたトランシルヴァニア問題について受け売りします。


トランシルヴァニア地方は第一次大戦後に敗戦国ハンガリーからルーマニアへと割譲された地域です。 そこで今でも多くのマジャール人ハンガリー人)がこの地方に住み、マジャール語で生活をしています。 彼らの多くが元首ニコラエ・チャオシェスクの独裁に不満を持っており、ハンガリーへの帰属あるいは独立を望む人々もあります。 それでもここはルーマニアですので、店の看板や道路標識はルーマニア語で書かれ、人々は公共の場ではルーマニア語で会話し、学校でマジャール語が学ばれることはありません。 二箇国語放送の地域なのでした。
さて、ここにハンガリールーマニアとの対立がからみます。 マジャール人がたくさん住んでいるとの理由で、チャオシェスク氏はこの地方が大嫌いです。 他の地方には住宅施設や交通機関を次々に設けていくのに対して、ここは常に後回し。 数少ない医薬品が送られてくることはなく、医師も同じく(社会主義国だからこそできる)。 食糧不足の際には勿論この地方が真先に犠牲になります。 これぞチャオシェスクの人呼んで「殺村政策」! じゃじゃじゃーん。


それでこのハンガリーの学生たちはこの地方に食料や医薬品を持ち込むためにこうして国際列車に乗っているのでした。 同胞マジャール人を見殺しにしてたまるかという訳です。 又、マジャール語の新聞や政治雑誌もお届けにあがります。 これは違法行為ですので、国境で見つかった際にはすべて没収のうえ強制送還となるから大騒ぎ。 椅子の裏は検査するぞ女の子にはボディチェックはないだろう男だってぱんつの中に隠せば何とかなるぞ、と国境通過三〇分前。 大山はすっかりでぶになり、がさがさしたままでパスポートコントロール、荷物検査、無事に通過、ほっ。
そして一行はトランシルヴァニアのある小さな村へ、違法行為を重ねるために向かいます。 ルーマニア人の家庭に宿泊するのです(ルーマニア人は外国人と接触してはいけません)。 違法行為に弱い大山はつい同行してしまいました。
家族はお母さんと娘が二人に姉娘の夫と四人。 葡萄棚のある小さな家は寝室二つに台所・玄関部屋・風呂なし・汲み取り便所なる構成。 ここにハンガリー学生(途中から何故か増えてしまって八人)+大山が転がり込みました。 旅行者の団体+日本人という訳でかなり目立ったはずですが、何とかまた無事に通過、ほっ。
義兄が工場で働いて女たちが洋服を作ったり刺繍を刺したりする他、ささやかながら農業も営みます。 おそらくルーマニアでも貧しい方の家庭と思われましたが、ハンガリーから持ち込まれた食料のおかげで、なかなか豪華な日々でありました。 又、アメリカから救援物資も届くそうで、お助け人がいるというのは実にありがたいものですね。 話によれば結構多くのマジャール人家庭がお助け人を持っているそうで。 関係ないけど、お隣の家では夕暮れからスライド上映会が行われて菓子がふるまわれました。 文化ではないの噂ほど貧しくないわと大山はちょっと安心したものです。 別れ際に貰ったこの家族の住所はハンガリーの友人宅。 ルーマニアに直接送っても検閲で引っ掛かって届かないからという訳。 ふたたび恐怖です。
それから彼らと一緒に観光もしましたが、木造の家や建物が多いのには驚きでした。 日本のそれにそっくりなのです。 何でもマジャール人はアジアから来たという説があるそうで、マジャール語との関係を調べるために日本語を習っているという人にも何人か会いました。 それから空手を習っていて、もうすぐブルーの「オビ」ですという坊主頭の少年に日本語の発音を訊ねられました、可愛かったです。


えー、ここまでがハンガリー側から見たトランシルヴァニア地方とその問題点です。 次にルーマニア側の言い分を伺ってみましたので、つづくっ。


つづいて大山はモルダビア地方に一人で向かいました。 字の読めない農民のためにフレスコ画(外壁にまで描かれている)で聖書を説いたという僧院が有名です。 あちなみにトランシルヴァニア地方はドラキュラで有名です。 で、このフレスコ画は異邦人トルコ人が悪者として描かれていることもよく知られています。 この地方はトルコやハンガリー等の侵入に遇うことが多く、そのためにルーマニア人意識の強い地方でもあったりする訳です。
さて、この地方のとある駅で英語を話す機械工学専攻の学生に出会いました。
ハンガリーの大学生からトランシルヴァニアについて聞いたという大山に対して)どんな類のトランシルヴァニアの歴史について聞いたのか知らないが、ハンガリーがあの地方を欲しがっていることを頭に置いておくべきだと思う。 彼らはあの地方は元々はハンガリーの領土だったと言う、誰もいない土地にマジャール人がやってきて住みついたと言う、今も多くのマジャール人が住んでいると言う。 だけどつい最近歴史学者が証明したのは全く反対の史実だ。 千年前には確実にトランシルヴァニア地方にルーマニア人が住んでいた。 そしてその後も常に多数派だったんだ(これは確かで、今もマジャール人より多いルーマニア人とマジャール人よりは少ないドイツ人がトランシルヴァニアには住んでおります)。
ルーマニアマジャール人を受け入れようとしてきた。 トランシルヴァニア地方に孤立しないようにと、他の地方に働き口や住宅を設けて何とか同化してもらいたいとやってきたんだ。 それなのに彼らはただ我々を嫌っている。 ハンガリーの助けを待ち続けているだけなんだ。 でも、ハンガリーが本気で他国民を助けると思うか? 実際、もう既にルーマニアからの逃亡者を沢山抱えて職一つ与えられないでいるじゃないか。 我々もマジャール人を嫌っていると言ってもいい、ただし、それは彼らの頑固さに匙を投げたということだよ。


受け売りが下手で意地悪を言っているみたいですが、彼はこれを熱っぽく語ったのであります。 同じような意見は英語を話すルーマニア人(大学生か元大学生)からは必ず聞かされました。 この証明された史実というのは、彼らにとってかなり重要なことらしいのです。
付け足しで、ルーマニアの行った同化政策ルーマニア語強化(マジャール語語源の通りの名前・街の名前をルーマニア語っぽくする/マジャール語新聞の発刊とか)、トランシルヴァニア地方にルーマニア正教会を建てる(マジャール人は主に新教徒)等々、いろいろあります。 これらに反対してブダペストでは何度もデモが行われたそうです。 ただ、ブダペストではとゆのがぽいんとでもあります。
スリランカのシンハラ・タミル問題の時も頭を抱えてしまったけれど、これも困ってしまいました。 日本人大山にはわかりませえんというのも、ヴェトナム難民の押し寄せる昨今ではそろそろ通用しなくなる言い訳なんでしょうね。


後ほど詳しく書くつもりですが、この大学生は政治に話が及んだとたんに顔色を変えて周囲を見渡し、人のいないところへ行きましょうと大山を誘ったのでした。 えっちねえではなくて、秘密警察が聞いているかもしれないからです。 これはびっくり。


詳しく知りもしないのに偉そうなことを書きましたが、トランシルヴァニア問題なぞルーマニアにとっては序の口なのであります。 もっともっと恐ろしい問題が山積みされていて、日本人旅行者大山にも生命の危機が訪れます。 そうです、カナダ人にもらったサラミを大山は食べ尽くしてしまったのです。 なんで大山ってばこんなに喰い意地が張ってるの、ばかばかばかっ。


そんな訳でまだまだ続きます。 果たして大山がまだまだ書けるのかどうか、こんなものをまだまだ読む人が一体いるのだろうか、うーむ。