東欧見聞録>恐怖のるーまにあ : 〆 (text by 大山あゆみ)

(JOHNR)「ジョン万次郎星間漂流記」613 of 786 89/09/25 07:18:04 101 line(s)
from 0681 大山あゆみ
題名(Title): 東欧見聞録>恐怖のるーまにあ : 〆
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こんなところでございました。 出発以前は社会主義国には乞食はいないとか何とかそういった理想的なイメージを抱いていたので、大きな大きな打撃でした。 乞食がいないどころか、スリランカなんかよりもっと高度な乞食がざらざらいるではありませんか。 ケントをよこせと怒鳴る子供を尻目に、はろーすくーるぺん頂戴と笑っていたスリランカの子供を思い出し、大山はまためそめそしました。
貧富の差がないというのも、考えてみりゃ貧富の差が存在しない訳はないのでした。社会主義国ではその差は流石に小さいです。 しかし僅かな貧富の差がどんなことに結びつくかといえば、持てる人による見せびらかし見せびらかし攻撃です。 貧しい人はより貧しい人をみつけて見せびらかし見せびらかし攻撃をします。 地獄です。 何か明るい話題を探しましょう。


えー、ルーマニアにも一応嗜好品なるモノはあります。 忌まわしいアイスクリームビール、煙草、ケーキなどなど。 但し、その品質の悪さは保障*1つきです。
大山はハンガリールーマニア煙草の噂を聞きましたが、ハンガリー煙草よりまずい煙草があってたまるかとたかをくくっていたのでした。 しかし、ルーマニア煙草は鼻血が出るほどまずいのです。 だいたいフィルターつきの煙草が一種類しかなく、そのフィルターはトイレットペーパーを丸めたものであります。 肝心の煙草本体はすかすかで、これなら手巻煙草の方がましという代物。 吸い口の葉をちょっと落とそうとすると殆どの葉がざらざら零れてしまいます。 又、パッケージは■みたいなもので箱らしくとめてあるだけで、店で手渡された瞬間に崩れてしまうものでした。 そんな訳で外国煙草の人気は高まるばかり、アルバニアブルガリア産の煙草が闇で売られていたりします。 マールボロやケントのパッケージが印刷されたビニル袋が流行中で情けなかったりもします。 ステイタス・シンボルなのですよ、これが。 ルーマニア煙草が僅か9レイなのに対して、ブルガリア煙草は30レイ、アルバニアは50レイ、マールボロが140、ケントが150といったお値段でございます。
コーヒーはブカレスト以外ではなかなか発見できません。 飲ませる店があったとてやはり品質は最悪。 得体の知れないコーヒー粉をぐらぐらと煮詰めて泥水のようにしたものに砂糖をがんがんいれて飲むというものです。 カフェイン中毒の大山はこれが大変辛くて辛くてなりませんでした。 外人専用の五つ星ホテルのカフェでは本物のコーヒーを飲ませるという噂を聞いた大山はだあと駆け込んでコーヒー四杯を一気したのでした。 街のコーヒーが3レイのところ、このコーヒーは25レイもするだけあって流石においしいのです。 漸く大山は一息ついたのだけれど、ふと市内で泥水コーヒーを緊張しながら飲んでいた少年二人の顔を思い出し、どどどーんと自己嫌悪に陥ったのでした。 あ、結局暗い話題になってますね。


ルーマニアで素晴らしかったものは田舎の景色です。 チャオシェスク大統領の殺村政策がよい方向に働いた訳で、都市部以外の開発をしていないからなのです。 特に東部を鈍行列車に乗っていくともう大変。 一駅ごとに見事な変化をみせる風景には驚かされます。 山に川に湖に丘に森に草原にと、何でもござれです。 舗装されていない駅前の道を男の子が大きすぎる自転車をこいでいきます。 線路際で牛飼いが歌をうたいます。 がちょうの群が電車に驚いてゆっくり逃げていきます。 子供はやっぱりこちらに向かって手を振ります。 山の麓に見えるあの小さな家からは白い煙が昇っているから御飯時かなあ、なんて世界です。


さて、倫敦に帰ってからの大山は更に悶々し続け、ルーマニアはこうこうこうだったから大山はもいっかいルーマニアに行って何かしてこようと思うの、と友達に言ってみました。 すると彼女はあんらまあと驚き、でもね大山がルーマニアガンジーになれる訳でないでしょ大きい問題から手を付けるんじゃなくて近い問題から片付けていきなさいと仰るのでした。 尤もな御指摘だったので、とりあえず大山は家探しをしたのでした。 おしまい。(了)

*1:ママ