音読の稽古
サツキはいま国語の授業で、スーザン・バーレイの『わすれられないおくりもの』を読んでいて、ときどき「おんどくのしゅくだい」というものを持って帰ってくる。家の人に音読するのを聞かせて、声の大きさや間違えないで読めたかどうかの評価をもらうのである。私も休みの日に何度か(たいてい夕飯の支度をしながら)聞いたことがあったけれど、なにしろ私は元演劇人であるので(ははは)、ついダメ出しなどしてしまうのであった。
「『あなぐまは、かしこくて、いつもみんなにたよりにされています。こまっている友だちは、だれでも、きっと助けてあげるのです。それに…』」
「はいはいはい(ト、止めて)。先を急ぎすぎて読むのが早すぎるから、もうちょっとゆっくり読みな。自分で『ちょっと遅すぎるかなあ』と思うくらいでちょうどいいよ。ハイもう一回最初から」
「『あなぐまは、かしこくて、いつもみんなに…』」
「そうそう、そんな感じ」
こんな具合。
初心者の朗読の問題点というのはたいてい読むスピードと、適切な間を入れることと、場面の転換に応じて呼吸を変えるのが不備である場合が大半なので、そこに注意するだけで劇的によくなるのである。
「『…あるあたたかい春の日に、もぐらは、いつかかえるとかけっこをしたおかにのぼりました。もぐらは、あなぐまがのこしてくれた、おくりもののお礼が言いたくなりました。「ありがとう、あなぐまさん。」もぐらは…』」
「ちょっとストップ。えーとここはお話のいちばん最後で、もぐらがいろんなことを思い出したりしたあとに、もう一回あなぐまさんに話しかけたくなって『ありがとう』って言うわけじゃん? だから、ほかの部分とおんなじようにすらっと読んじゃうんじゃなくて、このセリフだけもっと大事に読んでみ」
「感情をこめて読む、っていうこと?」
「うーん、僕は『感情をこめる』っていう言い方はあんまり好きじゃないんだけど、まあそういうこと。それじゃ『もぐらはあなぐまがのこしてくれた』から。ハイ」
「…『もぐらは、あなぐまがのこしてくれた、おくりもののお礼が…』」
小学生相手に、演劇用語にたいするこだわりをみせてしまったり。
で、きのうサツキが国語の時間にさされて読んだところ、先生から「サツキさんの読み方はよいですね」と褒められたそうで、指導の甲斐があったというものであり、ようするに自慢がしたかったのである。エヘン。
- 作者: スーザン・バーレイ,小川仁央
- 出版社/メーカー: 評論社
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「わすれられないおくりもの」音読授業をデザインする(前編)