「なぜ中学受験をするのか」

 なぜ中学受験が熱気を帯びてきたのかを、考えてみましょう。
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 第二に、右傾化した日本の政治が君が代・日の丸を強制することによって、戦前ほどではないにせよ学校が愛国心教育の場となり、公教育の教育現場がイデオロギー闘争の最前線になってしまったことに嫌気がさした親が少なくないことがあげられます。これは、レフトの立場を採る親よりも(そういう親は一般庶民に同情的なインテリが多いので、むしろ公立学校を選ぶ傾向があります)、いわゆるノンポリの立場を採っている親の方が拒絶反応が強いようです。彼らはイデオロギーはその時々の状況に合わせて「自己責任」で選ぶものと考えていますから(だからこそ「ノンポリ」なのです)、学校に押しつけられることを嫌います。彼らが中学受験を選ぶのは、心の自由をお金で買っているようなものです。それに、そもそも親が学校に求めているのは学力であって、イデオロギーでも愛国心教育でもないのです。私は、これが意外に大きなポイントではないかと思っています。ちなみに首都圏では、教員志望の優秀な学生や大学院生の多くが、この問題を嫌って公立学校を避ける傾向が顕著になっています。


石原千秋中学入試国語のルール (講談社現代新書)』(2008年)より