わたしはそもそも「知育えほん」というジャンルが大嫌いなのだけれど。

幼児にしてはならない教育 - 虹色教室通信
に、関連して。

■司会 これまでのお話を総合すると、早期教育のパンフレットに書かれている「脳科学の知見から明らかになった……」という文言は鵜呑みにしてはいけないということでしょうか。

■甘利 脳科学は基礎科学であり、細かいところから積み上げていく学問です。脳科学の研究からわかってくるのは神経細胞の神経繊維がつながるのはどのくらいの時期だとか、それから神経の軸策でミエリン鞘ができあがるのはどのくらいかとか、そういう細かい知識なのですね。ニューロンの働き一つとってきてもきりがないくらい複雑なのですが、そういったことを一生懸命研究して言えることと、グローバルな脳の働きについて言えることの間にはまだかなり大きな距離があるのですよ。

■汐見 そううかがって少し安心しました。脳研究者の方には、何かデータが出てきたときに学問的な厳密さを飛ばしてしまい、教育の問題だとか育児の問題にまで飛躍させないでほしいと願っています。そこは慎重であってほしいと思うのです。

■甘利 脳を活性化する方法とかいろいろな俗説がありますね。あれがまるきり嘘だと皆がわかっていたらあんまり害がないからいいのだけど……まるきり嘘でなさそうに見えるから害があるんですよね。大昔はグルタミン酸を飲むと頭が良くなるとかね(笑)。あれもあの当時は根拠がまったくなかったわけではないのですよ。グルタミン酸というのは脳の中にあり、重要な役割を果たしているからこういう説が出た。だからといってそれをいっぱい摂取すればよいかというと、取りすぎればたいへんな害になる。
 重要なのは、たんなる現象観察とサイエンスを分けて考えることです。……



「〈脳科学で言えること・言えないこと〉対談――早期教育脳科学 甘利俊一・汐見稔幸」『赤ちゃん学カフェ〈2008(vol.1)〉』より

脳トレ」だの「脳にいいこと」だの「脳がどうした」「脳がこうした」みたいな本ドカドカ売っといてこんなこと言うのもなんだけれど、大半はクズもいいとこなんじゃないかと思っている。「脳」ブームに良いところがあるとすれば、そのおかげで関連の研究に予算がつきやすくなることくらいなんじゃないかなあ(じっさいに現場の研究者が恩恵をこうむっているかどうかは知りませんけど)。