さいきんの読書

奥さんとコドモらが義実家に帰省中でヒマなので、久しぶりに日記を書く。


ちょっと思うところがあり、恋愛についての小説かエッセーが読みたくなって探してみたのだけれど、これはというものが見つからない。恋愛小説だのエッセーなんてそれこそあふれるくらいあるはずなのに、こちらの気持ちにピンポイントで応えてくれるようなものはなかなかないものだ。というわけで結局なつかしの『ノルウェイの森』の気に入っているところを読み返してみたりして。

そのほかでは、図書館で借りてきた長嶋有泣かない女はいない』が面白かった。私はほかには『パラレル (文春文庫)』しか読んだことがないのだけれど、なぜか以前から「長嶋有はアリだろう」という確信があり、大江健三郎大江賞の第1回の受賞者に彼をえらんだ時も「さすが大江さんはわかってらっしゃる」と妙な感心をしたものであった。

この本には表題作のほかに「センスなし」という短篇が収録されていて、あと「二人のデート」という作品を印刷した紙が本の最後のページにセロテープで貼りつけてある(挟みこみの別冊かなんかだったんだろうか)。どの作品も女性が主人公で、クールというか体温の低い感じの独特な語り口が印象的だった。面白いのは登場人物の科白の表現の仕方で、カギカッコの外にまで科白がはみ出したりするところ。

 しばらく耳を傾けていたが、睦美の好きな音楽はかからない。B'zの新曲がかかると泉川さんは
「聞いて聞いて、ほら」律子の好きなやつだよ、と西岡さんに大声で呼びかけ、自分が好きなわけではないのに浮かれた様子になった。

また、丸括弧の変わったつかい方をしているところが二か所。

 開いたすき間から、わずかに光がもれた。シャッターは上下に割れるように、ゆっくりと開いていく。明かりは倉庫の橋まで神々しく広がっていった。
ツァラトゥストラはかく語りき)睦美は大げさなあの音楽を思い浮かべて、シャッターの開ききるのを待った。

 ややしばらくためらったが、真ん中の手すりを両手でつかみ、一番下の段に右足をのせる。(シータは木登り平気だよね)のぼりはじめてみるとやはり怖かったが、上にたどりつくと落下防止の柵もない、ほとんど平たいだけの空間があった。

とくに後者、いわずとしれた『天空の城ラピュタ』のパズーの科白であり、主人公の睦美が屋上への梯子をのぼるときにふっとこのシーンを思い出したということなのだろうけれど、いま思わず「いわずとしれた」と書いてしまったが、これが宮崎駿の引用だとすぐにわかる読者ってどのくらいいるのだろうか。すくなくともビデオなりDVDでくりかえし見たことがないとわからないのではないかという気がするし、そうするとそうでない読者のために、『ラピュタ』の、とかなんとか説明したくなるのが普通だと思うのだが、それを全くしないでただぽんと放り出すように書いてしまえる勇気というのはちょっとすごいと思う。小説を読んでいて驚くことなんてそろそろもうあんまりないのだけれど、これにはほんとにびっくりしました。


ほかに筒井康隆朝のガスパール』。朝日新聞に連載されていたとき、当時すでに自分は新聞をとるのをやめていたので、朝日をとっていた職場の先輩にお願いして何日か遅れで切り抜いたのをもらって読んでいた。それが平成3年だからちょうど20年前である。いまで言うネトゲみたいなもの(しくみはだいぶ違うけど)を題材にしてそれほど陳腐化していないのは、さすがだという他ない。